アクト・オブ・キリング



インドネシア発、
今迄にない、あってはならない新たな切り口、テーマのドキュメンタリー。

明らかになる不条理で恐ろしい政策の裏にあった残虐な殺人。
生まれるはるか前のその時代の風潮や雰囲気は、学ぶ機会もなく分からない。
これは、日本も他人事ではない。
寧ろ、当事者であるかもしれない。

共産主義排除のもと、行った殺人鬼は過去の行いを楽しそうに、
思い出しながら再現し、語る。
次第にカメラを通し振り返りながら彼らの心は変化し、その先に待っていたのは...

この映画がいかに重要であるか、
見つめるべき事柄であるか、
突きつけられたテーマ。

しかしながら、
その悪趣味が故に同調出来ない。
宣伝、コメントほど恐怖が肌で感じられなかった。
いたって淡々と鑑賞してしまった。

空気感やその熱は充分に得られたが、
彼らが目指したノワール映画を頭の後ろで感じ、コメディタッチに描かれる今作の孕む恐怖は薄れていった。

ラストシーンの「音」には今作の全てを感じ、そういうことかと思ったがそれは時すでに遅かった。

エンドロールの匿名表記には、
如何に挑戦した撮影だったかを感じられた。


2012/ジョシュア・オッペンハイマー、クリスティーヌ・シン、匿名/★★☆☆☆☆


世界の果ての通学路



通うことが命懸けの通学路を通し、
世界各国「果て」の現在を描くドキュメンタリー。
充分に大変なことは伝わった。
子供たちがそれでも未来に希望を見出す姿勢を、観客の体験、日常と重ねることで自信の怠慢や幸福度を見つめ直すよう出来ている。

それでも僕はこの作品にやや否定的。
それはまた別で、彼らには土地の伝統や執着する何かがあるはず。
それを、国の差異に重ねることは違うんじゃないかと。
もっと、国がその民族に密着し、国が動くべきではないだろうかと。

その困難な環境に置かれた彼らは、
満足していたし、それこそ幸せな毎日に見えた。
それを日本に住む僕が自分は恵まれているから、もっと大事にしなきゃと誘導するようなテロップや描き方は観ていられないし、
お涙頂戴型に感じた。

それを決定付ける、カット割り。
カメラの存在を充分に感じ、待ち構えているアングル、不運や危険をまた別で繋ぎ合わせる。
これは、ドキュメンタリーを装ったドラマだった。

こんな感想を抱く僕自身こそが気付くべき怠慢な感情を持つ日本人と言われるのなら、
全てを踏まえた上でそれを一蹴し、揶揄したい。
それは絶対に違う、と。

それでも、映し出された子供たちに賞賛の眼差しを贈りたい。
溢れる夢、それは観ていて気持ち良かった。

2012/パスカル・プリッソン★★☆☆☆☆


WOOD JOB 〜神去なあなあ日常〜



矢口史靖監督が遂にやってくれた。
久しぶりに帰ってきた!そんな感じ。
初の原作物であるが素晴らしかった。
染谷将太は意図しないように意図した冴えない役を演じ、彼を引き立たせる脇役陣。
伊藤英明は、この自然バカ、筋肉バカを演じさせたら今は右に出るものはいないだろう。

近年の矢口史靖監督作品では飛び抜けた傑作。
『ウォーターボーイズ』の人から『WOOD JOB!〜』の人になっていくんじゃないだろうか。

何を撮るかではなく、どう撮るか。

青春映画を撮る上で、それを撮ろうとするのではなく、
固めていく演出でそれを描き出す。
田舎映画をとる上で、それを撮ろうとするのではなく、
林業というHow toを用いることで人間ドラマを映し出す。

難しい事はない。
けれど、丁寧に一つ一つ伏線を回収をしていく。
無理がないから楽しめる。
「ああやっぱり楽しかった」と心から思える。

携帯の電波一つとっても、
遮断から、接続に至るまでに主人公の成長を反映させる。
故に等身大の若者が出来上がるからあの台詞に無理がない。

『ウォーターボーイズ』的な演出もあり、ラストの流れは痺れました。
素晴らしい。

吹き替えなしで挑む監督の意図がしっかり伝わってくる。
これをエンターテイメントと呼ぶのだ!

2014/矢口史靖/★★★★☆☆




プリズナーズ



分かってはいたがもう本当にそっちの映画で心底やられました。
テーマは勿論重いが、それを際立たせる音楽や撮影で何か全てを吹き飛ばした。
脚本が巧妙で張り巡らされる伏線も見事だが、どこか危ない橋を渡るようなB級感。
そのギリギリのラインのせめぎ合いが張り詰めた緊張感を生み出す。

一種の、田舎ホラー。
想像は全部裏切られた。
この映画を観ていると、どこか俯瞰視している自分の日々置かれている環境がリンクしてくる。
人ごとではない。
一回パニックに陥ったら、その場に遭遇したら、ともはや自分の写し絵のよう。
かなり宗教的な暗喩があり、明かされた時、その「迷路」に自ら足を踏み入れていたと感服した。

ジェイク・ギレンホールの緊迫感、
ポール・ダノのいつも通りのハマり役は素晴らしい。
ヒュージャックマンのこの路線は少し疲れてしまう感じ。

脚本に魅了され過ぎた感も否めないが、ビルヌーブ監督にこの手を扱わせたら手に負えない。
毛嫌いしないで是非観て欲しいです。

2013/ドゥニ・ビルヌーブ/★★★☆☆☆



ヴィオレッタ



着飾れば着飾るほど、
過剰に描けば描くほど、
全てがチープに感じてリアルな恐怖から離れていく。
娘の感情もどちらにいくのかも、
分からないまま彼女の辛さの葛藤には気付けない。
滑稽なままに。
んー、勿体ない。、

2011/エバ・イオネスコ/★☆☆☆☆☆


シンプル・シモン



スウェーデン発のハッピーラブコメディ。
ポップな演出と北欧テイストの色使いが音楽に乗せてたたみかける。
アスペルガー症候群の弟を背負った兄の不運を重くしない。
それが演出の妙であり、この作品のテーマ。
心が温まる、デートでも楽しめるコメディである。
兄弟の関係性が素晴らしい。
兄は良い意味でも悪い意味でも弟が全て。
弟の病気のせいで仕事も手つかない。
親公認の彼女にもフられてしまう。
この同情する、共感を持たせる兄目線でもある映画で、
それを超えた兄弟にほっこりして、
それぞれが家族のこと、兄弟のことを想起させることでハマっていく。

ただ、それでしかなかったというのが残念な部分でした。
想像していた通り面白かったし、
スウェーデンを感じる小道具、音楽もオシャレで楽しかった。
アスペルガー症候群を脳内を具現化させての演出も素晴らしかった。
けれど、想像内にとどまった。
そこを一つ踏み込む何かが欲しかったという感じでした。

ラストは、それしかないよな。
そうだろうなと。

アスペルガー症候群的な映画、最近多いなあ。

主演の、スカルスガルド次男坊。
この一家は恐ろしく良い。

2010/アンドレアス・エーマン/★★★☆☆☆



百瀬、こっちを向いて。



恋愛小説集、短編の映画化作品。

主人公が、高校卒業から15年後に母校に講演会をするために帰郷する。
その際、偶然母校のマドンナ的存在の先輩に出くわし、
近況報告と同時に過去の回想で物語が進んでいく。

幼馴染の先輩の恋愛に翻弄され、同級生の百瀬と出会い、主人公は今までに見たことないような景色を、初めて感じる青春のフィルターを通して、観客もいつしか主人公に自分を投影していくという構造の映画。

こういった場合、その先輩は憧れの存在で周りにも慕われているが主人公は冴えない。その傍らには理解してくれるたった一人の友人というのがあって、今作はまさにその図式でした。

回想から現実戻る瞬間、話に引き込まれていたというよりも、どこかこの台詞はミスリードをしようとしているんではないか。
という何か妙な違和感を感じてしまった。

ここで話すことの長さや繋がりもない、まして観客はまさに今あなたがたの恋愛模様を観ていた訳で、それを敢えてそちらから切られたら乗る感情も乗らないのに、って。
隣の子供はとても複雑な心境だったろうな。

よく理解出来なかった点もあって、

主人公が語る、
人間レベル平均が50点。
僕は2点。
という言葉。

あんなに分かりあってた幼馴染なのに、
さも何年も音信不通だったかのような、高校が同じだったこともわからないなんてあるのだろうか。
それにしては出会ってからの急速に幼馴染を強調するのは何だろうな。

青春の距離感という意味では、
『大人ドロップ』で絶妙なリズムがあったので、掛け合いや高校生を取り巻く人間関係に今作は感じられなかったのかもしれない。

それでも、
花言葉の演出はありきたりながら納得は出来たし、ラストはあれで良かったと思う。

2014/耶雲哉治/★★☆☆☆☆



ライヴ



井口昇監督最新作。
井口ワールド全開という訳では無かったが、
あやふやに曖昧に、細かいこと抜きに楽しめ!というスタンスは健在だった。

角川の記念作品ということもあり、
角川映画に捧げるオマージュ、
昔のテレビドラマ観たような、
古い演出。
あったなあこういうの、
なんだか乱暴だけどこれも映画だよなあ、そんな具合に。

死亡するシーンを真正面からじっくりと映し、そこにテロップとそれらしき音楽が流れる。
現実味はないのだけど、そうやって見せ場をきっちりやるあたりが、
僕が小学生の時に帰宅して観ていた昼間の刑事ドラマみたいだ、と
角川をそこまで知らないながらに感じました。

山田悠介の原作小説を基にしながらも、大きく脚色されていた。
理由付けもそうだが、
そもそも映画に小説の「ライヴ」が登場し、それに翻弄されながら主人公たちが小説を読み解いていくという変わった展開だった。

トライアスロンとはいいつつも、
本作はひたすら走る、走るのみ。

一つ気になったのは舞台設定。
田舎から上京し、
スマホでマップを開くと新宿に主人公は居た。
そこから振り回されながらヒントを探し求めるためにひたすら走るのだが、
彼が飛び出した場所は、新潟だった。
これが僕の地元ってだけで映画的違和感とは別の話だろうと観ていたが、
「新潟しんきん」の看板やローカルバスの新潟の文字も映す、
最後の競技場は新潟スタジアムビッグスワンで、大きく「NIHGATA」も文字も見える。
なんだかしっくりこない。
だけど、舞台挨拶の際に新潟のことをしっかりと言っているし、
あれは僕の勘違いで、ずっと新宿と思っていたのは新潟の間違いだったのか。
うん、きっとそうだろうな。
古町モールのドカベンも演出で使っちゃうくらいだからきっとそうだ、...

余りにも僕の地元過ぎて、
なんか映画を変な気持ちで観てしまった。
古町モール、ドカベン、NEXT21、廃墟ビル、赤いローカルバス、下堀ローサ、ビッグスワン。
信濃川をバックに橋の上で母と言葉を交わすシーンは、
そこは普通行かないよなーと思ってしまった。

映画は死に方と戦い方に拘っていて、
それが嘘っぱちでもそれを楽しむだという感じ。
人間関係に特に絡みはなく、モノローグで会話するから、もう細かいこと忘れよって思って楽しんだ。

ふらっと観に行くにはいんじゃないでしょうか。
それにしても、井口昇監督って不思議だなーと再認識。

2014/井口昇/★★☆☆☆☆



8月の家族たち



人生は、
よく分からない曖昧なことばかりで、その中で生きて行かなきゃいけないんだ。

序盤は、伏線をはるための一時間。
中盤は、関係を明らかにさせる三十分。
後半は、伏線が回収されていたことに気付く。

皮肉と罵倒の台詞の連続は、家族と人生を重ねるように出来ていた。

売りの演技合戦も楽しく見られたが、
複雑な人物関係な脚本がやや引っかかる。
それも有りなら、これも有りか。
それが無しなら、これも無しってことでいいのかな、という具合に。

冒頭の紙とペン、
だらしない性格が繋がった瞬間はグッときた。

ラストシーンはよくある映画だなとなるが、
ふと、平野が語る哀愁がとても悲しい始まりの映画だった。

クロエ・モレッツがオーディションを受けていたらしいが、
結果的にアビゲイル・ブレスリンがとてもハマっていたからこっちで良かったと思う。

ハリウッド的映画だったけど、
日本でも十分に描ける内容だと感じた。

誰がどのように思っているのか、
それは家族でも分からないこともある。
それでも家族の絆は強い。
傷はしっかりと根幹で共有されていた。

2013/ジョン・ウェルズ/★★★☆☆☆




とわられて夏



ジェイソン・ライトマン監督最新作。
彼が作るメロドラマ。
いい意味でも悪い意味でも裏切られた。

「脱獄犯との禁断の愛」
という、原作物で言ってしまえばありきたりな設定だが、本作はどうやらそう簡単にはその筋に進まない。

お互いが過去に対してとらわれていて、
お互いがそこに依存するかのように惹かれ合う。
その過程はいささか強引で、その感情に納得した上で観ることは出来なかったが、そこまでに至る描写はとても丁寧で、何故か納得した自分がいた。

ケイト・ウィンスレットがこの役を演じるということは、
彼女そのもののような映画的濃厚な愛を見せてくるのだろうと思っていたが、一切そんなシーンは無かった。
むしろそれをあえて隠した事で、より性の部分を想起させられた。

それは、導かれるダンス。
それは、壁越しの言葉のリズム。

ベッドシーンは無かったけど、息子から表現された、その「リズム」という言葉は、幼心ながらも成長していく彼から語られることで、省いた愛は十分だった。

そして、今作の象徴的なのはやはり食事のシーンだろう。

出会って間もない男に当然のように不信感を抱く。
それを、手足を縛った上で淡々とスプーンで作ったトマト煮を与える。
何度も、何度も、
一口、一口と。
その一口ずつ彼女は彼に心を許していく。

決定的だったのは、
熟れた桃で作るピーチパイ。

今度は息子も加わった。
ここで2人の愛は家族の愛と変わり、
完璧ではないが次第に心が移ろっていく。
画だけの表現。
素晴らしかった。
このシーンの手つきはエロスそのものでした。

単に禁断の愛の映画だけではなく、
息子に注がれた愛、
愛と交わった息子の成長記録。

それが明かされる終盤、
息子目線だったと解る瞬間、
何か壮大なものを感じた。

ラストは『幸せの黄色いハンカチ』を彷彿とされられた。

2013/ジェイソン・ライトマン/★★★☆☆☆