ザ・イースト



社会派スパイ映画なのだが、久々にどう観ていいのか、観終わった後も感想が上手く出てこない作品に出会ってしまった。
きっとそれは、現代のアメリカ社会をフィクショナルながらリアルに描き、それを画面と空間の狭間で体感したからだろう。
特に上手いなと思ったのは、エレンペイジの演技とモノローグの導入の仕方。それに、際立ったキャラクターと個々のここまでに至る背景と闇を丁寧に描いていたから、テロという反社会活動に説得力が生まれたのだろう。
映画的演出力の高さ、これに尽きる。
企業側にも、反社会活動にも、足を踏み入れ宙に浮いた状態の主人公が何を見出し、観客がどう結論付けるのか、またはその過程は完全委ねられている。
日本映画の今まさにそこにある壁を見せられた気がして辛くもなった。

2013/ザル・バトマングリ/★★★☆☆☆



ドラッグ・ウォー 毒戦



ジョニー・トー監督50作目。
中国全土を舞台のノワールアクション映画。
前半から中盤にかけてののめり込むような演出と息を飲む静かな心理戦は素晴らしかったが、後半の失速感とラストカットは勿体無い印象。
役者の演技に、物語上の演技を重ね、ギリギリのところの間が絶妙で、弱そうに見せて、実は...みたいな銃撃戦と空間演出が噛み合って楽しめた。
最後まで人間のエゴを出し、どうしようもない堕落感が痛烈だ。
ホテルでの心理戦のバランスがとにかく凄い。
タイトルにもなっている今作のテーマはドラッグを取り巻く社会との絡み合いなのだが、
真に捉えていたのは、ドラッグに溺れていく人間ではなく、それでも尚他を差し置いてでも生きようとする、生への渇望ではないだろうか。
生きたい、それが麻薬の役割を果たし、本来なら求めるべき希望の生が結果的に破滅の根源になっている構造はあまりに恐ろしく皮肉だ。
だからこそ、あのラストは...

2013/ジョニー・トー/★★★☆☆☆


エヴァの告白



原題の「移民」を『エヴァの告白』としたことは間違いないではないだろうし、それも有りなのだろう。
教会でエヴァは売春の罪を告白し、
神父は「神は許してくれる」と言う。
このシーンに全てがあったのだろう。が、そもそも罪が僕にはよく分からない。
最初の入国審査の際、妹は結核で隔離されエヴァはもがき苦しみ、妹を追い求め奔走する。
生活をする為に、お金を盗んだり、売春をしたり彼女は路頭に迷うのだが、
一つ一つがあっさりとしていて、感情が移る暇もなく煮え切らない。
何を罪とし、何に対して許しを乞うのか。
ラストカットの重みがなくて、ただホアキンの哀愁が光っていた。
コティアールはその象徴としてでしか存在していなかった、そんな風に映ってしまった。

2013/ジェームズ・グレイ/★☆☆☆☆☆


胸騒ぎの恋人



今をときめくグザヴィエ・ドラン監督二作目。
間に挟まるインタビューシークエンスのあからさまなカメラの遊びは性と情の揶揄に感じ、F.Oと音楽の重なりは彼の強烈な個性で、『マイ・マザー』の時よりも狂気のような危うさよりも冷静な仕上がりになっていた。
ラストシーンは彼を投影するような感情に向き合い、素直なショットで好きでした。
日本公開三作でより色彩が秀でている感性で、
『わたしはロランス』のような唖然とするショットは少なかった。
三作を観て、徐々に編集の妙とスピード感が上手くなっていて、彼はこの先どこまで行くのだろうと。
とりあえず、タイトルは仮だが『トム・アット・ザ・ファーム』を観ろってことですね。

2010/グザヴィエ・ドラン/★★★☆☆☆


光にふれる



盲目の少年が新たな日々に足を踏み出し、そこで出会う仲間たちと彼の唯一の世界である聴覚で少女に惹かれ恋をする。その背景には揺るぎない家族の存在があり物語は交差していく。
大学生のキャラ設定や日々成長していく過程はかなりベタに描かれているのだが、そこで本当に成長していくのは主人公ではなく周りの存在というところにグッとくる。
テレビでの野球観戦のシーン、生まれて初めて知るダンスのシーンがとにかく好き。
それぞれに好きなシーンがある、そういう映画。
そして、自分に重なるハットするシーンなんかもあるかもしれない。

こんなにいいシーンがたくさんあっても彼には見えていない。
悲しくなる現実に、泣かそうという演出ではないから泣けてくる。
暗闇のシーンでも、彼は少しずつ世界が広がり、光にふれていく。

今年の数本になるかもしれない、そんな映画でした。

2012/チャン・ロンジー/★★★★★☆



スノーピアサー



ポン・ジュノ監督ハリウッドデビュー最新作。
ハリウッドとか関係無くポン・ジュノの作品は映画館に観にいかなくてはならないという使命感。
だから、今作は必ず映画館で観なければということなのです。

原作はフランスのグラフィックノベル。いわゆるバンド・デシネってやつですね。
僕は、ハリウッドということよりも、この漫画原作って事が作品の進行軸が大きく左右されているように感じました。漫画のパッと見た時の印象からのスピード感と没入感を、映画の画にする脚本作りがどうなされたかということです。

そのため、挙げればキリがない設定のムズムズは抜きに観る方が楽しめると思います。
少なからずそれでも、首相の入れ歯、魚で足を滑らす、黒人の特設寿司屋、バトルをやめ新年を祝うシーンなどシニカルで独特なギャグが盛り込まれ、シリアスな物語をポン・ジュノ演出でまとめ上げていた。それだけでも充分に面白い。

極寒で外に出られない列車の中だけという限定的な閉塞空間。
前に進んで行くということを横の繋がりをうまく利用して画作りがなされているといこと。これがどけだけ設計されているかを一から辿ると本当に上手い。

物語の本質はそういった繋がりでしかない列車の縮図を、現代社会の不安定な資本主義の寓話に対する痛烈な風刺にも取れるが、資本家と労働者を神とそれ以外に置き換えることが出来る関係性にあると思う。
表面的には『マトリックス・リローデッド』のよう。
しかし、今作は根本が違うのだろう。
序盤のジョン・ハートの手にはキリストがあり、説明が一切ない先頭から届く赤いメモはまさに預言なのだろう。

そして、前に行くにつれて明らかになる列車の世界の謎、つまりスノーピアサーは不完全であると知らしめた。
神の死はまさに尊厳の崩壊からなる新たな希望だった。

個人的に素晴らしかった点は、
有無を言わさない絶対的な伏線回収。
ラストシーンは結構痺れた。
アジア人と子供が見る世界はどんな結末なのか、やはりそれは始まりなのだろうか。

怪物的なティルダ・スウィントンや存在感、抜群なジョン・ハートを観るだけでもいい。
何よりソン・ガンホがとにかく良くてイケメンだった。

いつもよりエンタメ色が強い分、楽しみ方は変わるだろうし、納得いかない部分も多々ある。
ジョン・ハートの結末には、、、

それでも
ポン・ジュノ演出、ソン・ガンホ出演は観なくてはならない。
そういう作品なのだ。

2013/ポン・ジュノ/★★★★☆☆





鉄くず拾いの物語



去年から今年にかけて、僕の中でかなりの問題作となった。
ノンフィクションを演出しフィクションに仕立てあげ、こちらでは分かりかねぬ異国の田舎町をこれでもかと示してくるが、押し付けとは違う心地悪さだけが残った。
僕が思うお金を払い映画をスクリーンで観るという体験とは違う角度からの提示であり、その部分ではまた映画を教わった。
作品だけを見ると、いささか疑問ばかりが残る。
子供たちのカメラを感じぬ演出は良かった。が、それさえも僕はあまり受け入れられず、
家族だけ見ればもっとやれる、何をしていると貧しさから感じる国や個々の苦しみは到底理解が出来なかった。
ドキュメントのように映画をどこまで作り込むかというのはとても難しいのだと改めて思うと同時に、この作品を良しとするなら、その理由は何か。

2013/ダニス・タノビッチ/★☆☆☆☆☆


神奈川芸術大学映像学科研究室



この世代が織りなす現代の日本映画の産物は何物にもなりそうな恐ろしさの希望に溢れていた。
きっちりと撮っている、作品への優しさが取るように見え、こだわりのシーンは僕のお気に入りにもなった。
演者が存在することの違和感と、どこまでが僕の守備範囲か判断がつかない重くなった空気があっさりとしていて、最後は目を背けたくもなった。
ただ、全ての意図が分かるから気付けば主人公に移入する自分もいて、ラストのカタルシスは清々しかった。

2013/阪下雄一郎/★★★☆☆☆


アメリカン・ハッスル




ハリウッドが本気を出して作った、最高のアメリカ映画!そんな感じだ。
D.O.Rが映画の中心にいるような現代の流れは奇妙であるが、一般観客に受け入れられ確実に評価されている。
プロデューサーは彼に任せれば間違いないという感じ。
ただこんな言葉を並べても仕方ないぐらいの驚くべき演出力と豪快かつ見事なシナリオの展開に唸るばかりで僕はのめり込んだ。

いちいち徹底していて付け入る隙がなく、ここまでやるか!と感嘆する。
デニーロの登場シーンは、お約束で分かっているし、それにデニーロも応える。
クリスチャン・ベイルは役者冥利につき流石の一言。
ブラッドリー・クーパーはこのコンビの安定感と抜群のセンスが光る。
エイミー・アダムスの色気たるや半端じゃない。そして魅了する力と均衡が素晴らしい。
そして何より素晴らしいのはやはりジェニファー・ローレンスだろう。
出演シーンは少ない中、画面に映れば全ては彼女の物。
他の役者を完全に喰っちゃう圧倒的な存在感。
絶対にアカデミーは取るべきだし、取って欲しい。この若さで素晴らしい。
どこまでいくのだろうか。
『ウィンターズ・ボーン』からの流れから一目を置いていたが、もう遠い存在に。とにかく期待するばかり。

笑いと愛が共存する、痺れるシーンはいくつもあった。
スクリーンと対峙すると、今公開されている話題作ほどスッキリしない、ある種の居心地の悪さがある映画であるから万人理解は難しいかもしれないが、この作品が凄いんだということは必ず伝わるだろう。
髪を振り乱しながら没入し、最後は賞賛の拍手が包む。
現段階の今年のベストムービー。

2013/デビッド・O・ラッセル/★★★★★☆




メイジーの瞳



どの目線で描くか、どの目線で観るか、それに伴って大きく物語の方向は左右されるが、その先に何が見えたか、それこそが今作の主題でありそれは僕らに委ねられ変化に心の奥で変容し続けるように思う。

家族愛はそこまで感じられはしなかったが、そこに待ち受ける個々のメイジーに対する思いと不器用な行動に大きな愛、或いは人間の剥き出しになってしまう母性を感じた。

メイジーは可哀想な子、悲しい、そんな言葉は聞きたくない。
僕自身の境遇や環境により、今作に描かれる不遇な子に対する共感の思いは起因する。
だから、切なさはあっても共感は出来なかった。
それでも、痛いほどメイジーの気持ちは理解したつもりだし、下手な親の愛情にも抵抗はなかった。

役の演出よりも、一つ一つのシーンの後から滲んでくるような空気に最大の魅力を感じた。
想像する域とは別のところにメイジー役の少女はしっかりと存在し、スカルスガルドは嫉妬するぐらい色男に映りハマっていた。

世間に蔓延る、一種多用されている愛の奥に存在し、
何度も繰り返される「愛してる」という言葉は、必ずしも万能ではいと提示してくれた今作に賞賛の念を贈りたい。
若い世代に観てほしい、そう思った。

2012/スコット・マクギー、デビッド・シーゲル/★★★★☆☆


Philip Seymour Hoffman




また、名優が逝った。
僕にとって大きな存在だった。
以前僕は、好きな俳優でヒース・レジャーの名を挙げていた。
今はフィリップ・シーモア・ホフマンの名を挙げていた。
どちらも若くして薬物でこの世を去った。
ハリウッドとドラッグは切っても切れない縁だと彼らから教わった。
だから分かる。分かるけど、それでも人の死はとても悲しいこと。
ふたりは好きだった過去の俳優。
それでも僕の心に存在し続ける偉大な役者だった。
近いうちにホフマンの作品を全て観直そう。

セント・オブ・ウーマン/夢の香りの初々しい彼も、
カポーティの名演も、
25時、ハピネス、脳内ニューヨーク、
PTA作品、、
挙げればキリがない。

残された家族は辛いだろう。
小さな子供たち、僕はフィリップ・シーモア・ホフマンが大好きです。
また、映画の中で会いに行きます。

フィルムの中で人は死なない、何回でも出会える。

町山さんのページ。

グッときて悲しい。





ラッシュ/プライドと友情



邦題通り、プライド、友情が呼応するように宿命関係が描かれた男たちのアメリカ映画。面白い、傑作!
ダニエル・ブルーリュの芝居に痺れるよ。
僕自身、小学生の時からF1中継をかぶりつくように観ていたシューマッハ、ライコネン世代。その前のセナ時代より一つ前のニキ・ラウダ、ジェームス・ハントのF1ブームの1976年が舞台の今作。
男は女を愛する。それ以上に男は車を愛すの台詞が物語るようにライバル関係を描くロン・ハワード演出が絶品。
走行シーンの撮影、レース結果を流れるように描くシナリオ、交錯する2人の演技、エンジンの稼働を見せる撮影、大事故から這い上がろうとする展開にもう言葉が出ない。
ヘルメットを懸命に震えながらかぶるところでは僕が一番震えて観ていた、そんな気がする。
こういう映画こそ、6割が映画館に一年間を通して一度も足を運ばない日本の観客に観て欲しい。
観にいく理由は何でもいい。
デートでも、ヘムズワース目当てでも、KinKi Kids目当てでも。
とにかく素晴らしかった。

人生にはライバルが必要だ。
「偉大な者というのは、凡人が味方から得るものよりも、遥かに多くのことを敵から得る者のことをいう」

豪華スタッフにキャスト。
これだけでも観る価値あり。
是非劇場で!

2013/ロン・ハワード/★★★★★☆





大脱出



スタローン、シュワルツネッガーの二大巨塔共演。
大画面で観る古いVHS感、お金をかけていながらもあえての演出にグッとくる。物語上甘く見える部分は僕にとって楽しめる加点部分。
冒頭のシュワちゃんの登場シーンは笑っちゃうぐらい良かった。
スタローンの庭にお邪魔するシュワちゃんの最後のお箱とも言うべきスローシーンでもはや大満足。
全く当たらない銃弾に、ショットガンをぶっ放す矛盾の爽快。
伏線回収と、チープな感じさえも愛しさ溢れる作品でした。
宣伝でのネタバレ注意。こういうところは少しシビアに徹底して頂きたい。
最高のワイヤーカメラには驚きとガッツポーズ!

2013/ミカエル・ハフストローム/★★★★☆☆


ウルフ・オブ・ウォールストリート



スコセッシ×ディカプリオの鉄板コンビは長尺の180分。ファックを500回以上飛び交うとんでもないコメディー映画。
とにかくディカプリオが凄い。最近は美男子役ではなく変人路線に活路を見出したように圧巻の演技力。
これでオスカーをついに、、、というところで冒頭でも共演するマコノヒーがまあ凄い。
出演時間僅かながら圧倒な存在感。
ダラスのマコノヒーとウルフのディカプリオの争いが今から楽しみだ。
今作はただ、お祭り騒ぎをしているだけでなく、シナリオと展開力が、ディテールのこだわりがあり、表面的な笑いの裏に楽しめるところがあって発見の連続。長さは全く気にならず楽しめた。

2013/マーティン・スコセッシ/★★★★★☆

ビフォア・ミッドナイト


ビフォアシリーズ待望の9年振りの新作。リチャード・リンクレーター監督、イーサンホーク、ジュリーデルピーのもはやライフワークとなっていて、観客個々に思いが強く残っているだろう作品で、僕個人はサンライズを偏愛しています。
今迄のロマンス路線から子供たち中心の生活目線になり、その中でいかに2人を見せるか。夫婦関係のロマンスではなく、一定の青春映画の軸が代わっていないところが良かった。
会話劇を撮るアングルと役者の妙、会話からうまれる伏線を喧嘩で回収するシナリオの妙には感服。
こんなところでは語れない。何人かとゆっくり深めて行きたい映画。
少なからずこのシリーズはこれからも個々の心にあり続けるのだろうな。

2013/リチャード・リンクレーター/★★★☆☆☆


ソウルガールズ




アボリジニの差別歴史の中に生きた実話ベースのサクセスストーリー。
骨格はとても王道で観ていて逆転はないけれど、上手く上下展開を作りのめり込んでいく。
カントリーの保守ではなく、ソウルの情熱が乗り移った意義深い映画。

2012/ウェイン・ブレア/★★★★☆☆


アイム・ソー・エキサイテッド!



いつも狂気に満ちた徹底した心情描写と画作りで僕は思いさせられるペドロ・アルモドバル監督によるコメディー作品。どんなテイストで新たな境地なのだろうと少しの高揚感で臨んだ今作。
キャラをしっかりと際立たせて、これは完全なるフィクションだと割り切った演出。僕にはお笑い要素が終始分からず、画面の中で躍らされているように観えた。海外ではどんな評価なのだろうか?

2013/ペドロ・アルモドバル/★☆☆☆☆☆